長い s と丸い s、まっすぐな r と丸い r

ドイツ語でいうところの「senkrechtes r」のことを日本語だと何と呼ぶのか知らないのですが、とりあえず「まっすぐな r」としておきます。

このページは、TeX & LaTeX Advent Calendar 2024 の 第 11 日目 のために用意したものです。

大急ぎで書いたので、うんと簡単なものですけれど、何卒ご容赦ください。

12 月 11 日

12/10 のご担当は k16shikano さん で、明日 12/12 のご担当は 津茶利休 さん です。

標題に挙げたもののうち、「丸い s」と「まっすぐな r」というのは、「普通の」小文字の「s」と「r」のことです。

それに対して、「長い s」と「丸い r」というのは、現代では、ドイツ語以外ではあまり見掛けないのかも知れません。

長い s

でも、「長い s」のほうは、ドイツ語以外でも比較的よく出てきます。

例えば、12/4 の “2024b_Tygris.pdf” の最後のページに載せた Comenius からの引用のオリジナルは、こんな感じになっています(ラテン語や英語でも長い s が使われています):

(Joh. Amos Commenii Orbis sensualium pictus, 1705, p. 36 f.)

(Joann. Amos Comenii Orbis Pictus. Die Welt in Bildern, 1780, S. 58 f.)〔Adventar の ページには、12/3 は終日、このドイツ語を載せていました〕

丸い r

他方、「小文字の r の丸いやつ」のほうは、Schwabacher とか Fraktur みたいなドイツ語の古い書体じゃないと出て来ないのかも知れません。

この、「丸い r」は、小文字の b とか d とか h とか p の次に r が来るときや、r を重ねるときに使われるのですけれど、もっとよく見掛けるのは、「et cetera」の略語の一部としてです:

(Schwaben Alt Bold.ttf)

(Johann Stephan Pütter, Kurzer Begriff des Teutschen Staatsrechts, 2. Aufl., 1768, S. 109.)(普段結構目にしてるはずなのに、いざ探すとなると意外と手間取りました…)

なんで「rc.」が「et cetera」の略なのかというと、大昔の速記体(Tironische Noten)では「et」を「数字の 7」みたいに書いたらしくて、それが古いドイツ文字の小文字の丸い r と似ているので、それで、この丸い r で代用した(?)みたいです(代用してるのではなくて、ラテン語の「relinquo cetera」の略だという説もあるみたいですけれど)。

(Jan Tschichold, Formenwandlungen der et-Zeichen, 1953, S. 13.)

LaTeX の場合

LaTeX で長い s を使えるようにしているフォントパッケージとしては、有名な yfonts というのがあります:

(Yannis Haralambous さん作の Gotisch、Schwabacher、Fraktur という 3 書体を使うための、Walter Schmidt さんによるパッケージです。Fraktur にだけ “rc” のリガチャが入っていて “\etc” というコマンドで出るようになっています。丸い r そのものは入ってません。)

(LaTeX に初めて触れた頃、yfonts パッケージを使ってみて感動したのを覚えています。当時はまだ Type 1 にする方法も分からなかったのですけれど、dviout でも十分過ぎるほどの驚きでした。最近だと OpenType 版 もあるのですね。)

LaTeX で丸い r を使えるようにしているフォントパッケージがあるかどうかは知らなかったのですが、今検索してみましたら、missaali というのが見つかりました(書体は、Schwabacher よりも古い Textura です):

(missaali パッケージのドキュメントより)

以上、ほとんど LaTeX とは関係ない話ばかりで失礼しました。

〔追記〕つい gebrochene Schrift ばかりが念頭にあったのですが、LaTeX で長い s を使えるようにしているフォントパッケージとしては、yfonts の他にも、dayroman (2010 年の年賀状で使ってました)、kpfonts(2011 年の年賀状で使ってました)、libertine(2012 年の年賀状で使ってました)等もありました:

(2010 年の年賀状より)

(2011 年の年賀状より)

(2012 年の年賀状より)

〔オマケ〕いろいろな〔活字ではない〕 “et” (もうまったく LaTeX とは関係ありませんが):

(Adriano Cappelli (Hrsg.), Lexicon abbreviaturarum, 2. Aufl., 1928, S. 409.)

Merry TeXmas & Happy TeXing!

Since: December 11, 2024; Last modified: Dec 13, 2024.


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